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男性記者役の声が僕だとは、誰も気付いていなかった。 「してやったり」。僕はそう囁き、小さく拳を握った後、 ゆっくりと自分の背中へ手を回し、そしてブラを外し始めた。 いや、始めなかった。そもそもブラなど付けていなかった。 「ちっ。何をしているんだ」。 少し黄色味がかった蛍光灯に照らされながら僕は頬を赤らめた。そう、らめた。 そして、その恥ずかしさを紛らわすかのように目の前に偶然あった、 といっても打ち上げが終わった朝、僕が自分で置いたのだが、 それはまあどうであれ、近くにあったその冊子を手に取り、ページを捲った。 そこに書かれていたのは、公演が終わって10日も経つというのに、 僕が未だに自画自賛を止めようとしない“稽古場観察日記”だった。 「今回買えなかった人は次回公演で買ってほしいぞえ」。 取り立てて誰に宛てたでもない言葉。 そうであることを象徴するかのようにその声は少し篭り気味で、 もしかしたら佐野元春か誰かに似ていたように思えた。 結果、それは佐野元春と鈴木蘭々のコラボになっていたが、 僕はそれに気付かず、今度は声の響きだけを確かめるよう、こう呟いた。 「サ…、ム…、デイ…」。 案外、佐野だった。結局、フルコーラスを歌いきった。 歌詞が分からないところは「ヌヌヌ」と歌った。何故か「ヌヌヌ」だった。 前奏、間奏、もちろん後奏も「ヌヌヌ」だった。 そして、最後の「ヌ」が消えた頃、僕は思いのほか調子付いていた。 次の曲を歌い始めのだ。 「ガラスのジェ、」。 その時だった。不意に何処からともなく声が聞こえた。 僕は咄嗟に辺りを見回した。が、当たり前にこの部屋には僕しか存在しなかった。 僕は気を取り直し、厳密に続きを歌い出した。 「ネレーション、さよな…」。 身の毛が弥立つとはこのことだった。 今度はさっきよりも明確に誰かの声が聞こえた。 それは間違いなく僕に向けられている言葉だということまで認識できた。 僕はギターを降ろし、そう、いつの間にかギターを持っていたのだが、 それはさておき、僕は動きを止め、静寂に耳を澄ました。 その声は僕の集中が頂点を極めるのを待っていたかのように語りかけてきた。 「お前。さっきお前、付けてもいないブラを外そうとした」。 まさかと思った。まさか誰かが僕のあの愚行を見ていたとは。 「誰だ?!」。僕は六畳一間というこの空間にそぐわない大きな声で叫んだ。 しかし、虚しいほどの無視で“誰か”は繰り返した。 「付けてもいないブラを外そうとした」。 「言うな!」。僕はさっきよりも語気を強め、何処ともなく冊子を投げつけた。 不思議と声はピタリと止んだ。 「随分とおりこうさんじゃないか」。 僕はそう呟き、投げた冊子が当たり倒れたグラスを拾い上げた。 無論、コーラはすべて零れ、絨毯を汚していた。 僕はグラスに残っていた僅かなコーラをぺろりと舐め、 予想に反して従順だった“誰か”に話しかけた。 「おい、おりこうさんよ、聞こえてるのかい?」。 返事は無かった。僕は続けた。 「どうなんだい?聞こえてるんだったら何か言ってみろよ!」。 「付けてもいないブラを外そうとした」。 「それは言うな!」。 再び声はピタリと止んだ。どうやら僕は完全に“誰か”に遊ばれていた。 鼓動が高鳴り、ドロドロ血はドロドロなりにいつもより速く流れた。 僕は落ち着く必要があった。落ち着くための術を探した。 「…ラベンダー」。 の香りのものなど無かった。 「…エンヤ」。 のCDなんて持ってなかった。 「…リラックマ」。 を想像しようと思ったが、普通のリアルな熊しか浮かばなかった。 しかも、木の幹でがむしゃらに爪を研いでいた。 「この状況、“またぎ”だって落ち着いちゃいられないぜ」。 僕は無理に笑おうとしていた。 その瞬間、“誰か”はまた口を開いた。 「付けてもいないブラを外そうとした…」。 今度は黙ってそれを聞いていた。そして、僕はあることに気付いた。 それまで聞こえるたびに掻き消していたから分からなかったのだろう。 「外そうとした」の後に続きがあったのである。 僕は急にそれに興味が湧いてきた。 そして、それが何なのか知りたいがために“誰か”を挑発した。 どこかのバンドのボーカルみたいだったが、僕なりに挑発だった。 「ヘイ、ベイビー!何だって?そんな小さな声じゃ聞こえないぜ!」。 “誰か”は挑発に乗ってきた。 「付けてもいないブラを外そうとした…」。 やはり聞き取れなかった。 「何だって?カモン!」。僕は迫った。 「付けてもいないブラを外そうとした…」。 それでもまだ聞き取れなかった。 「ライブハウス武道館へようこそ!」。僕は更に迫った。 「付けてもいないブラを外そうとした…」。 僕は勢いに任せて、こう言った。「ここは東京だぜ!」。 その瞬間、遂に“誰か”は今までのそれとは比べ物にならない、 例えるなら、いや、例えないけど、とにかく大きな声を張り上げた。 「付けてもいないブラを外そうとしたやろ!」。 「…」。 「以上」。 関西弁だった。 そっちの人は“関西弁”と一括りにされたくないだろうが関西弁だった。 脱力が僕を支配した。僕の知らない空虚に僕は放り出された。 絨毯の染みは頑固なものになっていた。しゃがみ込み、指先でそれに触れ、 感じた湿り気に僕は乾いた笑いで応じた。 「“やろ”って」。 変わらず僕を照らしていた黄色味がかった蛍光灯が二度瞬いた。 僕はそれに気付かず、この言葉を誰に宛てたでもなく“誰か”に宛てた。 「そこは“ぞえ”だろ」。 その声は少し篭り気味で、もしかしたら佐野だったかもしれない。 【問】 “僕”にとって“誰か”とは、どんな存在であると考えられるか答えよ。 |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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masaco 2008/07/05 22:16 |
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masaco 2008/07/05 22:23 |
オクラホマ・河野クン。 |
DyuDyu. 2008/07/06 03:30 |
【答】誰か は実体はないが、あえて実体を現せば 銭湯にいた江田さんの奥さんの旦那さん。ブラを外そうとした行為を彼は見逃さなかった… |
ともちゃん★ 2008/07/06 07:17 |
【答】せやろGUYかと…。 |
その 2008/07/06 21:18 |
私も河野さんが浮かびました(^^) |
雛 2008/07/07 09:41 |
【回答】 |
かなこ 2008/07/07 10:51 |
どんな存在…もう一人の自分。天使と悪魔的な。 |
ゆう 2008/07/07 20:06 |
「どんな存在」って ムッズーい。 |
シビレ 2008/07/08 09:50 |
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きりか。 2008/07/08 10:59 |
>僕にとって誰かとはどんな存在か? |
ハミデント 2008/07/09 01:16 |
河野くんであれ〜( ̄人 ̄;) |
ちか 2008/07/09 15:12 |
バ●ァリンの『半分の優しさ』と言う名のオセッカイ的な存在。 |
みゅしゃこ URL 2008/07/10 22:50 |
やっぱり関西弁でまず思い浮かんだのは納谷さんでした。 |
のこ 2008/07/11 23:19 |
masacoさん」2つ答えたのか、「俺、そうmc小宮」のように、2つ目が1つ目の補足なのかが気になるぜ。 |
江田 2008/07/21 04:08 |
かなこさん」おっかねー!公の場であるバイキングでならまだしも、部屋での指導となるとおそろしや。 |
江田 2008/07/21 04:09 |
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